桜宵
2011-01-08 (Sat) 17:51
桜宵 (講談社文庫) (2006/04/14) 北森 鴻 商品詳細を見る |
ビアバー「香菜里屋」再び。
前作「花の下にて春死なむ」ですっかり「香菜里屋」のマスターのファンになってしまった私。
早速続編にも手を出してしまいました。
ひとつ前に書評を書いた「チェーン・ポイズン」はタイトルとは裏腹にほとんど毒のない物語でしたが、この「桜宵」は、そのタイトルの美しさからは想像が出来ないほどの毒に満たされた物語ばかりの短編集でした。
それも、最初に登場する「十五周年」では、あしらわれた毒の量もごく微量で、ほろ苦い程度だったものが、「桜宵」「犬のお告げ」と進むにつれどんどんその量が増え、ラストの「約束」になるとかなりの猛毒小説と化すのです。
おかげで読んでいる私にも毒が回った感じで読後はちょっとした酩酊状態になったほど。
そんな猛毒を、マスターの工夫を凝らした絶品料理と共に味わう。
なんという贅沢。
そう、この「香菜里屋」シリーズの醍醐味は、日常の謎をマスターに解明してもらうといったミステリとしての楽しみのみならず、想像だけでも生唾の出そうな、その料理の数々にあるのです。
ただ、この小説、巷の評判的には「花の下にて春死なむ」に劣っているようです。
確かに「花の下にて春死なむ」のほうが読後感が良かった、といえばそうだと思います。
でもどちらが心に残るかといえば、私は「桜宵」に軍配を上げます。
特にラストに位置する「約束」は、ある種底冷えのする怖さがありました。その後味の悪さは天下一品(笑)。
喩えて言えば、人間の心の深い闇を覗くような恐怖、でしょうか。
こんなこと、有り得ない、と言い切れる人は、きっと幸せな人生を歩んで来られた人でしょう。
けれど"妄執"に囚われた人間は、この物語の女性のように、平衡感覚を失い、自らの狂気に気付かなくなってゆくのではないかと思います。
十分に、だれでも起こり得る怖いお話だと私には感じられました。
そして、その"狂気"に気付けたマスターもまた、きっと他人には伺い知れない過去をもっているのだろうな、なんて想像を膨らませてしまうのです。
そうそう、今回は、マスターの古い知り合いである別のバーのマスターも登場し、舞台はいっそう賑やかです。
食いしん坊さんにも、ミステリ好きにも、そして"毒"のある小説を読みたい人にもオススメできる上質な物語。
どうぞ味わってみてください。
ただし、ニガイものが苦手な人には、ちょっとキツイかも、です。
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