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神様からひと言

神様からひと言 (光文社文庫)神様からひと言 (光文社文庫)
(2005/03/10)
荻原 浩

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社会人になって間もない頃、当時の上司から言われた言葉がある。
「たとえ今、自分がお客様の立場でも、もしかしたら明日は相手が自分にとってのお客様かもしれない。常にそう肝に銘じていなさい。」
その言葉を、ン十年経った今でも忘れていない私からすれば信じられない話なのだが。

巷には、神様になりたがる人たちがあふれている。
ほんの些細な商品の瑕疵に目くじらを立て、或いは店員の態度に難癖を付け、彼らは「責任者を出せ」「弁償しろ」と喚く。
"神様だから何でも通る。許される"と思っている。

私もかつて受電専門のテレオペの経験があるので、クレーマー対応には慣れている。
中年のオジサン相手ならば、とにかく相手を持ち上げる。
「お客様のおっしゃる通りでございます。さすがよくご存知でいらっしゃる。」
オバサマ相手なら、とりあえず気持ちに寄り添うフリをする。
「お気持ちお察しいたします。」「お怒りはごもっともでございます。」
そして心の中で「けっ」と毒づき、中指を立てるのだ。
我ながら性格悪いと思うが、わけのわからない"神様"を毎日相手にしていると、どんどん性格が歪んできて、すさんでもくるのだよ。

この本にも様々な形のクレーマーが描かれていて、クレーマーの実態を知らない人にすれば、こんなのはただの小説の世界の話であり、誇張されているだけだと感じるかもしれないが、実はこの本に出てくるクレーマーなんて、まだまだカワイイものなのだ。
私など、話の通じない相手に何度も何度も辛抱強く説明を繰り返しているとき、頭の中をずっとひとつの言葉がリフレインしていた。

「バカの壁」

だけど、本来クレームは企業にとっては宝の山であり、それを生かすことができれば、それこそ"お客様は神様"となり燦然と光り輝くことだろう。
現在、ほとんどの企業には「お客様相談室」という名のクレーム受付窓口が用意されているが、自社の社員が対応しているところは少なく、表向きはフィードバックをしている体裁をとっているが、実際にそのクレームを品質向上に役立てているのかと問われれば、私の知る範囲に限ればそういうところは皆無であった。
旧態依然の会社の体質、自らの進退にばかり汲々とする情けない上司たち。
若い主人公にはまどろっこしくイラつくことばかりだろうが、このトシになってつらつら考えれば、背負っているものの重さを思えば、それも致し方ない面もあるとは思う。

作中の「おでん」の喩え話の通り、社長だ専務だと威張ってみても所詮、自社の「おでん」の中だけのこと。
みんな一皮むけば、ただのオヤジであったり年老いた婆さんだったりする。
そして「おでん」の中では光り輝かない具も、それが主役となる場も必ずある。
時には鍋から飛び出し、新しい道を探すのもいい。すっかり味のしみたコンニャクや大根には難しいだろうけど、新参者のじゃがいもなら、うまくいけば「肉じゃが」として主役級の人生を歩めるやもしれない。
失敗したって、なに、今の日本なら「死にゃあしないさ」。

読み終えたときには、なにやら清々しく、思わず空を見上げて深呼吸をした。
うん、大丈夫。「死にゃあしないさ」。


"本物の神様"は、ジョン・レノンの「イマジン」に、ひとり静かに耳を傾ける。


天国なんかない

ただ空があるだけ


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さよならバースディ

さよならバースディ (集英社文庫)さよならバースディ (集英社文庫)
(2008/05/20)
荻原 浩

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バースディというのは、ボノボという種類の、一匹の猿に付けられた名前。
東京霊長類研究センターでは、彼に人語を教え、言葉によるコミュニケーションを試みる「バースディ・プロジェクト」が実施されていた。
ところが、このプロジェクトの初代代表が突然自殺し、後を任されることになった主人公の恋人もまた、主人公からプロポーズをされた当日の夜に、バースディが見ている目の前で、センターの5階の窓から落ちて死んでしまうのだ。
結局彼女の死もまた、自殺という判断が下されるわけだが、それに納得がいかない主人公は、僅か100語に満たない言葉しか習得していないバースディに、事件の夜のことを聞きだすべく孤軍奮闘する。
そんな頃、主人公の元に、死んだ恋人から一枚のDVDが送られてくる。
そこには死んだ恋人からの、とあるメッセージが隠されていた。やがて、唯一の目撃者バースディにより明かされる悲しい真実とは。
そして、所長からプロジェクトの終焉を告げられた主人公とバースディの行く末は如何に。

動物実験について語るには私には知識が足りないしどうしても偽善的になってしまいそうなので、バースディプロジェクトの是非については特に触れない。

しかし、この物語、主人公とその恋人があまりにも誠実さに欠け、その点に於いて実に腹立たしい。
バースディの行く末を案じ、彼を生まれ故郷(いや、彼は日本で生まれているので、母親の故郷ってことかな)に帰そうとした人物を毛嫌いしていたくせに、いざどうしようもなくなったら、手のひらを返すように彼にすり寄り、「実はずっとアンタのこと好きだったんだぜ」みたいに豹変する主人公。
生きているうちに何も行動を起こさず、死んだ後にとんでもない形で真実を告げる恋人の由紀。その死に加担させられたバースディの胸中を思うと胸塞がれる思いがする。
所詮猿には人間のような細やかな感情がないと思っているからあんな酷いマネができたんだろうね。
彼女の行動には決定的に思いやりというものが欠けていて、読んでいて怒りを禁じ得ない。何が、どこが純粋なんだか。

そんなこんなで、物語中で悪役として描かれる人物のほうがよほど首尾一貫しているという始末。
なんだかなぁ。

ただ、バースディの言語習得能力に隠されたトリックは面白かった。
面白かっただけに、いっそうバースディが哀れでならないわけなのだが。
感情を込めず、淡々と筋だけを追うのなら、とても面白いお話だと思う。

私には、とても出来ない芸当だが。


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日々子育てに仕事に大忙し。
でも家事は忘れても(・_・)読書は忘れない。
そんな道楽猫が、日々の暮らしの隙間をぬって読んできた本の感想を留めたくて開設したブログです。

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