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凍りのくじら

凍りのくじら (講談社文庫)凍りのくじら (講談社文庫)
(2008/11/14)
辻村 深月

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「あなたの描く光はどうしてそんなに強く美しいんでしょう」

「暗い海の底や、遠い空の彼方の宇宙を照らし出す必要があるから。そう答えることにしています。」

ドラえもんの作者、藤子不二雄はSFのことを「少し(Sukoshi)不思議(Fushigi)」と表現したという。
ドラえもんに強く影響を受けている主人公「理帆子」は、それになぞらえて、自分の身近にいる人たちの印象を「スコシ・ナントカ」と喩える。

「少し・ファインディング」
「少し・フリー」

そして自分自身は「少し・不在」。

必要以上に自己主張をせず、周囲に溶け込むフリをしつつ、その実、その場所には決してなじんでいない。
アタマの悪い友人たちを見下し、本当の自分はそこにはいないと身勝手な疎外感に浸る。

そんな「理帆子」は、本当は自分が「少し・痛い」ことを知っている。
心の底では強烈に人を求めている。
だからこそ、現実を見ることが出来ず身の程知らずな高みばかりを目指す「若尾」と離れられず、なぐさめ、励ましつつ自分の価値をそこに見い出す、言わば共依存のような関係に陥っている。
でもやっぱり「若尾」のことは「少し・腐敗」していると心の中では友人たち同様見下している。

そんな日常が、「少し・フラット」な高校生「別所」や、口が聞けず「少し・不足」な男の子「郁也」たちとの出会いによって変わってゆく。初めは少しずつ。そして、ある決定的な出来事を境に大きく。

そこから彼女は様々なことを学んでゆく。
自分に見えているのは、その人のごく一部にしか過ぎないのだということ。
自分は孤独ではなく、その気になれば居場所はどこにでもあるのだということ。
何より自分には価値があるのだ、ということ。

そうして、物事がいい方向へと向かい始めた矢先に、事件は起こった――。


この物語では、ドラえもんの「ひみつ道具」がガジェットとして非常にうまく用いられている。
実は、私はドラえもんについてはテレビアニメで時々観る程度の知識しかなく、こんなにも様々な「ひみつ道具」があったことを知らなかったし、こんなにも深いお話だったのだということも全く知らなかった。ドラえもん、恐るべし。
(でも私はあまりドラえもんは好きではないのだけど。)

ラストのドンデン返しは非常に感動的。
あちこちにばら撒かれたヒントから、タネ明かしの前に私はそのからくりに気付いてしまったし、まぁよくある仕掛けだよね、とは思うのだが、そこにもドラえもんの「ひみつ道具」が巧みに使われ、実に「少し(Sukoshi)不思議(Fushigi)」な世界を醸し出している。

そして「理帆子」は光に導かれ、救われる。
同時に、読んでいる私も、癒された。


辻村深月の書く物語は、たいてい「少し・毒入り」。
でもみずみずしく美しい。
そして、登場人物が別の作品にも少しずつ繋がってゆくところが楽しい。

実のところ、私は辻村深月という作家が好きなのか嫌いなのか、よくわからない。
あざとい、と腹を立てることも多いし、愛せないタイプの主人公が多くてうんざり、とも思っている。
でも何故か、書店でこの人の本を見かけると、つい手に取ってしまう。
おそらく「同族嫌悪」なのだと思う。だから気になるのだ。

新しい本が出たら、きっとまた読まされてしまうのだろうな。

「少し・悔しい」(笑)。

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アタゴオル

アタゴオルは猫の森 16 (MFコミックス)アタゴオルは猫の森 16 (MFコミックス)
(2010/10/23)
ますむら ひろし

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(只今、「猫漫画まつり」勝手に開催中(・_・))


東京の、とある自販機の裏の隙間を抜けると、そこは「アタゴオル」だった。

アタゴオルには、傍若無人で大酒飲み(猫正宗なのよぅ)、大食らい(イエッ!紅マグロ!)、他人の迷惑一切顧みず、ひたすら自分の欲求に正直という、とんでもないデブ猫「ヒデヨシ」が住んでいます。
でも、ヒデヨシは、こういうキャラのご多分に漏れず、間抜けでいつも失敗ばかりという、どこか憎めないヤツなのです。

ざろんがん わでんろ ざっつりー つよどお♪

ビートルズを超テキトーなひらがなで歌い、太鼓を叩き、毎日自分の思うように生きていく。
他人が困ろうがどうしようが知ったこっちゃない。
(でも自分が困ったときには誰かに助けてもらっちゃう)
今日もどこかでヒトヤマ当てて、でっかい紅まぐろと酢ダコを山ほど手にいれよう。
(まぁ失敗するんだけど、気に病むことはない)

いーいなぁぁ。
ヒデヨシのようには決してなりたくないけど^^;その強靭な体力と生命力、そして精神力にはとても憧れます。
良くも悪くも現代の日本人がとっくの昔に忘れ去ってしまった"生き抜く逞しさ"をヒデヨシは持っているような気がします。

そうそう、ヒデヨシヒデヨシと連呼してますが、他の登場人物(人外の方が多いけど)もみんな個性的で楽しいんです。
ヒデヨシのおかげで毎度毎度多大な迷惑を被りながらも、決して友達であることをやめない「ヤニ・パンツ」(猫)や「テンプラ」(人)、バイオリンをこよなく愛する「唐あげ丸」とその弟子「ヒデ丸」(猫)などなど。
そして忘れちゃならないのが、ヒデヨシのライバル「欠食ドラ猫団」!
コイツらがほんっとーにおばかで可愛いのです。

え?

なんですって?

それじゃあ、ただのギャグ漫画か、ですって?

いえいえとんでもない。「アタゴオル」物語は、実はとっても素晴らしいファンタジーなんです。

どのお話も、最後にはびっくりするぐらい幻想的な美しさに彩られています。

生きていくのがちょっぴり辛くなったら、
アタゴオルの森を訪ねてみると、いいかもしれません。

底抜けに陽気で楽しいヒデヨシが、あなたに元気をくれるでしょう。


「イエッ!紅まぐろっ!!」


※ちなみに、「アタゴオル」には色々シリーズがあります。「アタゴオル物語」「アタゴオル玉手箱」そして現在も続いている「アタゴオルは猫の森」。
「アタゴオル物語」の画像がアマゾンになかったので、今回は「アタゴオルは猫の森」の画像を使いました。

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銀河鉄道の夜―最終形・初期形〈ブルカニロ博士篇〉 (ますむら版宮沢賢治童話集)

銀河鉄道の夜―最終形・初期形〈ブルカニロ博士篇〉 (ますむら版宮沢賢治童話集)銀河鉄道の夜―最終形・初期形〈ブルカニロ博士篇〉 (ますむら版宮沢賢治童話集)
(2001/07)
ますむら ひろし

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カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。
僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸(さいわい)のためならば僕のからだなんか百ぺん灼(や)いてもかまわない。

小学生の私は、学校から帰って早速図書館から借りてきた本を開いた。
母は仕事でまだ帰ってきていない。姉もいない。
だれもいない居間。ガラス戸越しに小さな縁側が見える。

そして私は、銀河鉄道に乗りジョバンニとカムパネルラと共に長い長い旅をした――

本を読み終え、はっと気付くと、窓の外は夕暮れ。
薄暗い部屋の中で、私は茫然としていた。


「銀河鉄道の夜」は私にとってとてもとても大切な物語です。
ここまで"本の世界に入り込む"経験をしたことは、その後一度もありません。
私の口から何かを伝えようとすれば、それだけで物語の世界が壊れてしまう
そんな気がして、これまで一度もこの本について語ったことはありませんでした。

だからこそ、私の中では、「銀河鉄道の夜」の映像化は、どんな形であれ、有り得なかったのです。
きっとこれが、ますむらひろしでなければ、決して許せなかったでしょう。

この本を読むより前に、ますむらひろしの猫キャラクターで創られたアニメ版「銀河鉄道の夜」を観ました。
驚愕しました。
私の想像をはるかに超越した、素晴らしい映像でした。
ジョバンニもカムパネルラも、全く違和感なくそこに存在していて、もう私は、ますむらキャラ以外のジョバンニとカムパネルラを考えられなくなったほどです。

その後、この本の存在を知り、躊躇なく手に取りました。
この本の中で、私は初めて「銀河鉄道の夜」には実は決定稿が存在しないこと、初期形と呼ばれる「ブルカニロ博士」が登場する物語と、登場しない最終形があることを知りました。
推敲に推敲を重ねる…宮沢賢治にとって「銀河鉄道の夜」はそれほど特別な物語だったのでしょう。
私が子どもの頃読んだのも最終形でしたが、読み比べてみて、個人的には「ブルカニロ博士」が登場する初期形のほうが良いと思いました。

さあ、切符をしっかり持っておいで。
お前はもう夢の鉄道の中でなしにほんとうの世界の人やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。
天の川のなかでたった一つの、ほんとうのその切符を決しておまえはなくしてはいけない

いまでも、「ブルカニロ博士」のこの言葉を思い出すたび、胸があつくなります。

せつなくて、やさしくて、かなしくて。

「銀河鉄道の夜」はやっぱり、私にとって、とてもとても特別な物語なのです。

■追記
「銀河鉄道の夜」については、KAGAYA氏も素晴らしい映像作品を創られています。
機会があれば是非。
http://www.gingatetudounoyoru.com/

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チーズスイートホーム

チーズスイートホーム(1) (モーニングKCDX (1943))チーズスイートホーム(1) (モーニングKCDX (1943))
(2004/11/22)
こなみ かなた

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チルネコさんとこで「猫ミス」なる言葉が出てきたので、私からは「猫コミ」いや「猫漫」のご紹介をします。

アニメ化されたことで一気に人気に火がついた感じなので、ご存知の方も多いでしょう。
お母さんとはぐれてしまい、ひとりぼっちになってしまったチーと、ペット禁止のマンションに住みながらも、うっかり(?)チーを拾ってしまい、育てるハメになってしまった一家のほのぼのストーリー。

チーはまだ幼い猫で、とにかくその言葉遣いがとっても可愛いのです。

「おうちかえう」「こえなに?」「なにしてう?」

などなど。
もう、あまりの可愛さにハートをがしっとわし掴みにされます。
もちろん、人間には「にー」とか「にゃー」とかにしか聞こえてないわけなんだけど、
うちの猫も、なんか言いたそうにこっちを見て「みゃーん」とか鳴くことがよくあって、
「ああ、きっと何かしゃべってるんだろうな」
なんて思うので、やっぱりヤツラはちゃんとしゃべってるんでしょう。
人間には理解できないだけで。

作者の「こなみかなた」さんは、「チーズ」の前にも「ふくふくふにゃーん」という猫漫画を描かれていて(今も続いているのかな)そちらも大好きでコミックスを何冊か持ってるんだけど、当時から猫の習性をよくご存知で、特に擬音が秀逸でした。
何かを舐めるときの「ぞーりぞーり」とか「ざしざし」とか。
それはチーズでもそのままで、この作者の猫に対する愛情をひしひしと感じます。

また、飼い主一家も実にほんわかとしていていい感じで、無邪気で元気いっぱいのチーに振り回される様子にハラハラさせられながらも、読んでいてストレスを感じません。

何か嫌なことがあったりして辛いときや、自分の気持ちが毒に満ちているとき(笑)、ふんわりと甘く美味しいケーキを楽しむように、この本で癒されてみていただきたいです。

猫好きさんにも、そうでない方にも、自信をもっておススメできる良質の猫漫画です。

■追記
これを書いたあと、改めて1巻を読んでみて、色々間違っていたことに気付き愕然としつつ修正しました。
やっぱりうろ覚えで書いちゃいけませんね。反省です。

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四畳半神話大系

四畳半神話大系 (角川文庫)四畳半神話大系 (角川文庫)
(2008/03/25)
森見 登美彦

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なんなんだこれは。

ただのコピペ小説じゃないか。

人をばかにするにもほどがある。


なのに

なのに

なんでこんなに面白いんだっ…くっ(握りこぶし)

負けたよ…私の負けだよ。完敗だ。


真っ白に燃え尽きたよ…

以上。


で終わっちゃってもいいんですが、どうもそれだとぬらりひょんに取り憑かれそうな気がするので、ちゃんと書きます。
(でも語りすぎるのもこの世界を台無しにする気がするなぁ。)

いやぁ、ほんっと面白かったです。
特に、あの、妖怪「ぬらりひょん」小津と、「ふわふわ戦隊モチグマン」の壮絶なバトルが手に汗握る展開でもう…

え?そんな話じゃない?

あと、香織さんが、ひょんなことから心を持ち、樋口仙人の元で人間になるための厳しい修行を積む場面がもう、涙なしでは語れない…

それも嘘?

いやいやいやいや、でも、パラレルワールドではどんな展開も有り得ますよね。
こんなふうに、同じ舞台でいくらでもお話を創り出せるところが面白い。

だけど、この物語の秀逸なところは、主人公がどんな道を選ぼうが、結局最後は同じ結果に至るところなのです。
よく、「あの時あんな選択をしなければ、もっと違った人生になっていたはず」だの「あの時点に戻って、当時の自分に忠告したい」だのと人は考えがちですが、私はそれは無駄なことだと常々思っているのです。
「私」という人間の傾向性が変わらなければ、分岐点でどのような道を辿ろうが、結局どのみち同じような未来を招き寄せるのだ、とね。
その言葉選びの秀逸さといい、この作者は類まれなるセンスの持ち主だと見た。

中でも私が面白いと思ったのは、「自虐的代理代理戦争」。
そーだよなー。
歴史からみても、人間社会には色んなことがシキタリとして残されているけど、最早だれもそのシキタリの意味がわからなくなってすっかり形骸化しているのに誰もやめる勇気がなかったり、様々な問題が「いつかだれかが解決してくれる」ことを期待して次の代に先送りされていたり、結局すべては「代理代理」で繋がっているのよね。
バカバカしくも皮肉なお話に、うんうん、とえらく納得してしまいました。

それにしてもこの作者。合わない人はとことん合わないだろうなぁ。
私はこういうの大好きなので、もっと他の作品もよみたーいと思ってしまったのだけど。
うーん、どこからかチルネコさんの
「ようこそめくるめく森見ワールドへ」
とかいう声が聞こえた気がしたよ。

久々に、読み終わるのが寂しい、もっとこの世界に浸りたい、と思った小説に出会えました。
最後には、あの小津に愛着感じたもんなー。

というわけで、このふざけた書評も、

「私なりの愛ですわい」

んな気色悪いもんいるか。

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テーマ 書評
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くろひつじ



お゛お゛っ
このブログにお絵かきエディタがついてることに今更気付いた。

で、早速ためしてみた。

「黒ひつじ」


…べたですみませんorz


てゆーか、意味わかんないもの描いてほんますんません。

(絵をクリックするとイヤな大きさになります(・_・))

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失踪HOLIDAY

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)
(2000/12)
乙一

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「切ない物語を書かせたら、この人の右に出る者はいない」

などと評される乙一なのだが、私はそうは思わない。
この人の"切ない系"をいくつか読んだが、残念ながら私にはイマイチで底が浅いと感じられるものばかりだった。
もっとオトメの頃に読んだらきっと違った感想が持てただろうとは思うが。"オ"が抜けた"トメ"である私にはその事実のほうが切ない(・_・)。

で、「失踪HOLIDAY」

大金持ちのひとり娘ナオはママハハとの大喧嘩のすえ、衝動的に家出!その失踪先は…なんととなりに住むお手伝いさんちだった(ぎゃふん)←いやぎゃふんとは書いてませんが。


きゅんとした。
実に面白かった。

物語はごく軽いテンポでさくさく進む。
本来であれば結構重い状況にあるにも関わらず、主人公が重苦しくないのがとても良い。
ワガママで鼻持ちならない物言いとは裏腹に、主人公のナオが本当はとても不安で孤独で淋しくてたまらないのだな、ということが、ナオの言動から読み手にはきちんと伝わってくる。
そのように仕掛けられている。
そして、コミカルに、さらっと語られているにも関わらず、読後には、じんわりとした温かさと何とも言えぬ余韻が残る。

なかなかやるな、乙一!
乙一は、切ない系なんかよりこういうものを書いたほうがずっと良いものを書けるんじゃないかと私は思う。

実は、同時収録の「しあわせは子猫のかたち」のほうが、世間的にはかなりの高評価。
ふーん、こーゆーのが若者ウケするのかー、とナナメに読んだ。
だけどなー、私はやっぱりこの人の「セツナ系」はダメだ。
あざとさがハナについてどうしようもないんだ。

そうそう、乙一は、"あとがきの名手"でもあるので、作者のあとがきは必読。
「糸くず」のくだりは笑えます。
やっぱりこの人ってコメディのほうが向いてるんじゃないかなぁ。

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模倣犯

模倣犯1 (新潮文庫)模倣犯1 (新潮文庫)
(2005/11/26)
宮部 みゆき

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「どうして人を殺してはいけないのか」

道義的な意味合いや観念論に頼らず、その問いに説得力を持って明確に答えられる人はどれぐらいいるだろうか。

「模倣犯」の犯人は、己の自己顕示欲を満たすためだけに人を殺す。
そしてそのことに一切ためらいや疑問をもたない。もちろん後悔もしない。
それどころか、保身のためであれば、幼なじみを犠牲にすることすら厭わない。
彼には、"人を殺してはいけない理由"をどんな言葉で語って聞かせても、きっと理解できないのだろう。
彼にとって、すべての他人は、自分を輝かせ、優越感に浸らせるための役割しかもたない"脇役"に過ぎないのだ。


宮部みゆきの社会派小説の特徴のひとつとして、登場人物の人となりや抱える背景を、これでもかというほど丁寧に描いている、という点があげられる。
この小説にしてもそれは同様で、事件に関わるほとんどの人物について、ページを割いて仔細に描いている。
それがあればこそ、物語の世界に容易に入り込め、感情移入することができるのだ。
にも関わらず、どういうわけか、この事件の犯人"ピース"についてだけは、ほとんど背景が描かれない。
犯人に必要以上に感情移入してしまうことを避けるための、それは作者の意図的な手法だったのだろうか。

だとしても、私は、敢えてそこに突っ込んで、もっと犯人の人物像を掘り下げて描いてほしかった。
彼の犯行は、決してやむにやまれぬ、といった事情あってのものではないのだ。
人を虫けらのように殺して何の良心の呵責も感じない、彼の精神の病理を知りたかった。

「模倣犯」というタイトルの本当の意味は、最後にわかる仕掛けになっている。
そのあたりは、さすがだな、と唸らされた。
にしても、これほどまでに物語として完成度が高いにも関わらず、結果的に回収されないままに放置された伏線がいくつかあったことが非常に残念。
宮部みゆきほどの作家であれば、どれだけ物語が長くなっても、きっちりとすべてを回収して綺麗に着地してくれるだろうと期待していたのだけどな。


ともあれ。
冒頭の、「人を殺してはいけない理由」は、物語のエピローグとして語られる、一人の被害者遺族の言動に凝縮されている。
目に入れても痛くないほどに可愛がっていた、たった一人の血縁者である孫娘を無残に殺された老人。
彼は、事件の間中、ずっと冷静だった。犯人に振り回されても、どんなに辛い目に遭っても、「孫娘のためなら」とじっと耐えて耐え抜いていたのだ。
その老人が、犯人が逮捕されたことを伝えるニュースアナウンサーの

「これで事件もようやく終わりを迎えました。」

という何気ない一言に、声を荒げ、荒れ狂う。

「なにが終わりだ。なにも終わっちゃいないんだ」
と。

老人の慟哭こそが、すべてを語る。

慎ましく、それでも平凡に、小さな幸せに満ちていたであろう、老人と孫娘の生活。
決して派手ではなくても、それぞれに懸命に生きていた被害者とその遺族の人生。
それらはすべて、犯人によってズタズタに切り裂かれ、彼らの心も同時に殺されたのだ。

人を殺す、と言うことは、そこに関わるすべての人々の人生を、心を、共に殺すことなのだ。
被害者側のみならず、加害者側の関係者であっても、損なわれない者は一人もいない。

そして憎悪は次の憎悪を呼び込み、決して終わることがない。


「どうして人を殺してはいけないのか」

そんなこと、問うことすら思いつかない、そんな普通の人生を、愛しく思う。

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テルマエ・ロマエ

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)
(2009/11/26)
ヤマザキマリ

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テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)
(2010/09/25)
ヤマザキマリ

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抱腹絶倒!風呂浪漫。

勤務先の同僚に「ガラスの仮面」最新巻(・_・)と共に手渡されたコミック。

正直、表紙絵を見たときは
「うわー…なんじゃこりゃ。」
なイメージでした。
「これはダメかもしれない…。」
でもせっかく貸してくれたのだし…と思い直し、思い切って開いてみたらば。

これがもー面白いのなんの!!

最初から最後まで笑いっぱなしでした。

まず着眼点がいい!
考えてみたら、「大衆浴場」って日本が世界に誇れる文化のひとつなわけですよね。
で、むっかぁぁしのローマ帝国の人々も、今の日本人と変わらない位「お風呂」大好きだったわけで、そのローマ人が現代日本にタイムスリップ(風呂限定)して色々と技術を学ぶ(盗む?)っていうのは、理にかなっているというか、とてもよく出来たお話なわけですよ。
その発想は眼からウロコでした。

ローマ帝国万歳、ローマ帝国サイコーと思っている古代ローマ人のルシウスにとっては、"平たい顔族""(日本人/笑)から技術を盗むってのは、ある意味とっても屈辱的なことなんですが、実際"平たい顔族"の技術のほうが明らかに優れているのだからしょうがない。
かくしてルシウスは、風呂についての問題が起こるたびに現代日本にタイムスリップし、様々なヒントを得てそれを自国で生かして成功を収めてゆくのです(風呂限定)。ただし妻には恵まれなかったようですが(笑)。

それにしても、当然のごとくハダカがあふれ、ともすればとっても下品なお話に成り下がってしまうであろう"風呂"というテーマを、バカバカしくも熱烈に、でも決して品を損なうことなくここまで描き切る作者の力量というものも、また並ではないようです。
マンガ大賞2010、手塚治虫文化賞を受賞したというのも頷ける、老若男女だれにでもお勧めできる斬新なコミックです。
もうすぐ3巻目が発刊されるそうですが、果たしてルシウスの手がけるお風呂はどこまで進化するのか、いやそれよりそこまで風呂だけでネタがあるものなのか、興味津々。

あー、温泉入りたい。

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桜宵

桜宵 (講談社文庫)桜宵 (講談社文庫)
(2006/04/14)
北森 鴻

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ビアバー「香菜里屋」再び。

前作「花の下にて春死なむ」ですっかり「香菜里屋」のマスターのファンになってしまった私。
早速続編にも手を出してしまいました。

ひとつ前に書評を書いた「チェーン・ポイズン」はタイトルとは裏腹にほとんど毒のない物語でしたが、この「桜宵」は、そのタイトルの美しさからは想像が出来ないほどの毒に満たされた物語ばかりの短編集でした。
それも、最初に登場する「十五周年」では、あしらわれた毒の量もごく微量で、ほろ苦い程度だったものが、「桜宵」「犬のお告げ」と進むにつれどんどんその量が増え、ラストの「約束」になるとかなりの猛毒小説と化すのです。
おかげで読んでいる私にも毒が回った感じで読後はちょっとした酩酊状態になったほど。

そんな猛毒を、マスターの工夫を凝らした絶品料理と共に味わう。
なんという贅沢。
そう、この「香菜里屋」シリーズの醍醐味は、日常の謎をマスターに解明してもらうといったミステリとしての楽しみのみならず、想像だけでも生唾の出そうな、その料理の数々にあるのです。

ただ、この小説、巷の評判的には「花の下にて春死なむ」に劣っているようです。
確かに「花の下にて春死なむ」のほうが読後感が良かった、といえばそうだと思います。
でもどちらが心に残るかといえば、私は「桜宵」に軍配を上げます。

特にラストに位置する「約束」は、ある種底冷えのする怖さがありました。その後味の悪さは天下一品(笑)。
喩えて言えば、人間の心の深い闇を覗くような恐怖、でしょうか。
こんなこと、有り得ない、と言い切れる人は、きっと幸せな人生を歩んで来られた人でしょう。
けれど"妄執"に囚われた人間は、この物語の女性のように、平衡感覚を失い、自らの狂気に気付かなくなってゆくのではないかと思います。
十分に、だれでも起こり得る怖いお話だと私には感じられました。
そして、その"狂気"に気付けたマスターもまた、きっと他人には伺い知れない過去をもっているのだろうな、なんて想像を膨らませてしまうのです。
そうそう、今回は、マスターの古い知り合いである別のバーのマスターも登場し、舞台はいっそう賑やかです。

食いしん坊さんにも、ミステリ好きにも、そして"毒"のある小説を読みたい人にもオススメできる上質な物語。
どうぞ味わってみてください。
ただし、ニガイものが苦手な人には、ちょっとキツイかも、です。


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チェーン・ポイズン

チェーン・ポイズン (100周年書き下ろし)チェーン・ポイズン (100周年書き下ろし)
(2008/10/30)
本多 孝好

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読むうちにどんどん加速する違和感。

いやまぁ、これも叙述トリックものなので、違和感があって当たり前なのかもしれない。
だけど、私がここで言うのは、そういうミステリ部分の違和感ではないのだ。


だれにも必要とされず、何も楽しいこともなく、ただ過ぎる日々。
そんな日々の生活に絶望し、自殺を決意する30歳の女性の前に一人の人物が現れこう囁く。
「本当に死ぬ気なら、1年待ちませんか? 1年頑張ったご褒美を差し上げます」

自分の命をあと1年と定めた主人公は、ひょんなことから、とある私設児童保護施設の存在を知る。
そこの子どもたちと関わる中で主人公は次第に生きる意味を見い出し、自分の死にさえ価値を見つけてゆく。


よく出来た、お話だなと思う。
客観的に評価するなら、結構いい点が付けられるんじゃないかな。

でもやっぱり私にとっては"よく出来たお話"以上には成り得なかった。

初めて出会った子ども。
どんなふうに扱ってよいかもわからない子どもにいきなりおんぶをせがまれ、されるがままに"操縦"される…。
少しコミカルに描かれるその場面に、何とも言いようのない違和感を覚えたのが始まり。
そして、その後もその施設に入り浸り、いつしか児童保護施設の維持のために、子どもたちのためにと奔走するようになる主人公の姿にどうしても最後まで違和感が拭えなかった。

世を倦み、自殺を希求するような人物の再生の物語としては、心境の変化が唐突だし、設定が甘い気がどうしてもしてしまうのだ。
だって「ポイズン」なのに…。
題材としての「毒薬」だけでなく、もっと物語としての強烈な毒がほしかった。

どちらかと言えば、児童保護施設の園長やその息子の心情の方がよほど理解できる。
私の根性が捻じ曲がっているせいなのか?
きっとそうなんだろうな。

ラストのドンデン返しも、「ああ、そういうことね」という驚きは多少あったけれど、トリックとしてはそんなに目新しいものでもないし、"してやられた"という爽快感もなかった。

というわけで、全体的に中途半端な印象だけが残ってしまった。
かなり辛口の評価となってしまったのだが、実は本多孝好は初読。
この人は短編の名手といわれているので、短編はきっと面白いのだろう。
もつと別の作品でリベンジをしたい。

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ねこがねこんだ

大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

この年末年始、私はなんとウイルス性胃腸炎(たぶんノロ)でのたうってました。

27日という、例年より早い仕事納めに浮かれ、この年末年始は本読みまくってゲームやりまくってやるぜひゃっほー大掃除におせちづくりにがんばろうとホクホクと思っていたのに…。
いったい私がどんな悪いことをしたと言うのか。

事の起こりは昨年末29日の朝のこと。
なんかカラダがだるいな、首が痛いな。寝転んでDSやってたせいかなーと漠然と思いつつ朝ごはんを食べ、夫にすすめられるままに熱を測ると37.5℃。
わーやばい、ひどくなる前に直そう、と布団に入り、ゴロゴロしているうちにどんどん熱は上がり、そのうち39.8℃にΣ( ̄□ ̄*)
ままままさかインフルエンザ?
予防接種受けたのに。でも関節も痛いよ。
インフルだとしてもすぐにはわからないらしいしどっちみちもう病院も休診なので、とりあえず今日は様子を見て、翌日も熱が下がらなければ休日診療の病院へ行こう、とか思ってると、翌日には更に下痢が始まりとても動けない状態に。
30日はほんと辛くて、寒気はするわお腹は陣痛かと思うほど強烈に痛むわで、布団とトイレを往復しつつ
「ホイミ…キアリー」
と弱弱しく呪文を唱えてました(--::

結局インフルエンザではなくウイルス性胃腸炎らしいということで、とりあえず3日間絶食し、ポカリスエットとビオフェルミンで命を繋ぐ状態でした。

薬とポカリだけがとーもだちさ♪

体重5キロ減ったよ。

わーい♪究極の不健康ダイエットだねっ


il||li _| ̄|〇 il||li

1月3日になりようやくほんのすこーし症状がマシになり、1月5日からようやく仕事に出られる状況にまで回復。
いやー、ほんっと死ぬかと思った(・_・;;

そんなこんなで貴重な年末年始をドブにおもいっきり捨ててしまった私。

でもこれで厄落としが出来たはず、と気持ちを切り替え、今年はより一層読書に励む年にしたいなと思います。

こんな私ですが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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道楽猫

Author:道楽猫
日々子育てに仕事に大忙し。
でも家事は忘れても(・_・)読書は忘れない。
そんな道楽猫が、日々の暮らしの隙間をぬって読んできた本の感想を留めたくて開設したブログです。

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