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模倣犯

模倣犯1 (新潮文庫)模倣犯1 (新潮文庫)
(2005/11/26)
宮部 みゆき

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「どうして人を殺してはいけないのか」

道義的な意味合いや観念論に頼らず、その問いに説得力を持って明確に答えられる人はどれぐらいいるだろうか。

「模倣犯」の犯人は、己の自己顕示欲を満たすためだけに人を殺す。
そしてそのことに一切ためらいや疑問をもたない。もちろん後悔もしない。
それどころか、保身のためであれば、幼なじみを犠牲にすることすら厭わない。
彼には、"人を殺してはいけない理由"をどんな言葉で語って聞かせても、きっと理解できないのだろう。
彼にとって、すべての他人は、自分を輝かせ、優越感に浸らせるための役割しかもたない"脇役"に過ぎないのだ。


宮部みゆきの社会派小説の特徴のひとつとして、登場人物の人となりや抱える背景を、これでもかというほど丁寧に描いている、という点があげられる。
この小説にしてもそれは同様で、事件に関わるほとんどの人物について、ページを割いて仔細に描いている。
それがあればこそ、物語の世界に容易に入り込め、感情移入することができるのだ。
にも関わらず、どういうわけか、この事件の犯人"ピース"についてだけは、ほとんど背景が描かれない。
犯人に必要以上に感情移入してしまうことを避けるための、それは作者の意図的な手法だったのだろうか。

だとしても、私は、敢えてそこに突っ込んで、もっと犯人の人物像を掘り下げて描いてほしかった。
彼の犯行は、決してやむにやまれぬ、といった事情あってのものではないのだ。
人を虫けらのように殺して何の良心の呵責も感じない、彼の精神の病理を知りたかった。

「模倣犯」というタイトルの本当の意味は、最後にわかる仕掛けになっている。
そのあたりは、さすがだな、と唸らされた。
にしても、これほどまでに物語として完成度が高いにも関わらず、結果的に回収されないままに放置された伏線がいくつかあったことが非常に残念。
宮部みゆきほどの作家であれば、どれだけ物語が長くなっても、きっちりとすべてを回収して綺麗に着地してくれるだろうと期待していたのだけどな。


ともあれ。
冒頭の、「人を殺してはいけない理由」は、物語のエピローグとして語られる、一人の被害者遺族の言動に凝縮されている。
目に入れても痛くないほどに可愛がっていた、たった一人の血縁者である孫娘を無残に殺された老人。
彼は、事件の間中、ずっと冷静だった。犯人に振り回されても、どんなに辛い目に遭っても、「孫娘のためなら」とじっと耐えて耐え抜いていたのだ。
その老人が、犯人が逮捕されたことを伝えるニュースアナウンサーの

「これで事件もようやく終わりを迎えました。」

という何気ない一言に、声を荒げ、荒れ狂う。

「なにが終わりだ。なにも終わっちゃいないんだ」
と。

老人の慟哭こそが、すべてを語る。

慎ましく、それでも平凡に、小さな幸せに満ちていたであろう、老人と孫娘の生活。
決して派手ではなくても、それぞれに懸命に生きていた被害者とその遺族の人生。
それらはすべて、犯人によってズタズタに切り裂かれ、彼らの心も同時に殺されたのだ。

人を殺す、と言うことは、そこに関わるすべての人々の人生を、心を、共に殺すことなのだ。
被害者側のみならず、加害者側の関係者であっても、損なわれない者は一人もいない。

そして憎悪は次の憎悪を呼び込み、決して終わることがない。


「どうして人を殺してはいけないのか」

そんなこと、問うことすら思いつかない、そんな普通の人生を、愛しく思う。

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テーマ 書評
ジャンル | 小説・文学

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そうですよねえ

道楽猫さんの本が好き!での書評を読みながら、激しく頷いてしまった私です。娘に「どうして」って聞かれたら道楽猫さんがおっしゃってたように、真摯にこたえたいなあ。

Re: そうですよねえ

> Maさん
いらっしゃいませ☆

うん、本当に。
今の時代って、価値観が多様化してきて、昔なら当たり前だったことにもいちいち疑問をなげかけられたりしますよね。
でも、そういう時代だからこそ、大人はもっと自信をもって「ダメなこと」「いいこと」を次の世代に教えられるようにならなけりゃと思うのです。
アンパンマンの作者のやなせたかしさんがおっしゃってたんですけど
「絶対的な正義っていうのはある」
と私も思うのね。
殺人は、どんな理由があろうと、「絶対悪」なんだと、自信もって語れる大人でありたいなと思います。

コメントありがとうございました♪
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Author:道楽猫
日々子育てに仕事に大忙し。
でも家事は忘れても(・_・)読書は忘れない。
そんな道楽猫が、日々の暮らしの隙間をぬって読んできた本の感想を留めたくて開設したブログです。

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